唐突に『Small Island』の感想をしたためる。

突然ですが、イギリスのTV ドラマ『Small Island』の感想を書いてみますよ。見たのは12月の事なのですがね。LaLa TVで。LaLa TVの番組ページはこちら。あれっ放送予定が(・∀・)!
勿論ベネディクト・カンバーバッチ目当てで見ました。


第二次世界大戦前後、イギリスとジャマイカを舞台に、1人の黒人男性を巡っての2人の女性の数奇な運命を描いたドラマ・・・といったところでしょうか。黒人男性ね、マイケルその1ね、ひどい奴なんですよ。女好きで薄情で口説き上手、悪運だけは強いという厄介なタイプのこの男の為に、2人の女性の人生が狂っていくというか、2人の女性以上にそれぞれの夫が大変だけどそこはあまり斟酌されていないみたいな、そんなドラマでもあります。ベネディクトはその夫のうちの1人ですw
女性の1人はジャマイカで私生児として生まれ養父に育てられた、イギリスでの生活を夢見るホーテンス。もう1人は生家を嫌い、外の広い世界を夢見て、ヨークシャーからロンドンに出てきたイギリス人女性クイーニー。2人の女性の愛情と苦悩の物語の背景に、当時のイギリスの(旧)植民地に対する扱いや、人種差別といったイギリス社会の有り様が浮かび上がってくるところが面白かったです。
ホーテンスが、まあなかなかにアクの強いキャラクターで、ジャマイカからイギリスに渡るべく計画を実行していくあたりは、驚異的な行動力と思い込み力で突き進んでいく姿に若干呆れもしますが、こういうタイプがいないと話は転がりませんからね。
クイーニーはクイーニーで、現代の社会の価値観を当たり前に感じている自分にとっては、人種差別の意識を殆ど持っていない彼女に好感を持ちますが、多分彼女も変わり者なのでしょう。当時の社会の中では、地域の暗黙のルールを乱す少し困った存在として描かれています。


ホーテンスは一緒に育ったマイケルが初恋の相手で、子供の頃から彼と結婚してイギリスで暮らす事を夢見ていましたが、最悪の形で初恋は破れ、マイケルはイギリス空軍に入れられ、彼女も養父の元を離れて師範学校に入り、教師になるための勉強をはじめます。
クイーニーはロンドンで面倒を見てくれていた叔母が急死し、両親に家へ帰るように言われますが、それを嫌がり、求婚されていた、いい人だけど面白みのない銀行員のバーナードと結婚します。この、いい人だけど面白みのないバーナードがベネディクトなのですが、彼はこのドラマでは8割がた震えています。前半は、初めて会って以来夢中になってしまったクイーニーに、たどたどしく求婚をしたりとか。そして出征による長い不在を経ての後半は戦争神経症に苦しんでいます。余談ですが、昨今は素敵だのせくしーだの言われているベネディクトが、登場してすぐに「男は顔じゃないのよ」とか評されているのがおかしかったです。他人の評価なんて何かのはずみで簡単にひっくり返るものなのですね。


バーナードだけでなく、後にホーテンスの夫となるギルバートも、ホーテンスに(どういうわけか)夢中なのですが、女性2人ともマイケルに心を奪われているわけですよ。ひどいですねー。このドラマの中では、頭がよくて優しく礼儀正しく気さくなギルバートが一番いい男だと思うのですが、当初ホーテンスは自分の目的のために利用する事しか考えていなかったし。
クイーニーに至っては、戦時中にマイケルと偶然知り合い「ハリケーンのような」恋に落ちて、マイケルの子どもを妊娠するという。ちなみにマイケルは、戦後ふらっとやってきてクイーニーと週末を楽しく過ごした後カナダへ渡ってそれっきり。子どもの事など知りようがない。


クイーニーの夫のバーナードは、ある理由によって戦争が終わってもいつまでも帰ってこなかったので、生活のためにクイーニーは家の空いている部屋を使って下宿を始めるのですが、その下宿人がギルバートと友人、後にホーテンスが加わります。
しかし急にひょっこりバーナードは帰ってくるわけです。帰ってきたら家に黒人が3人も下宿していて、近所から白い目で見られているわけです。バーナードも下宿人たちに対して嫌悪感を隠すことなくあたります。
こんな辺りから、某雑誌にはこのバーナード「小物感漂う」とか書かれているのですが、こういった偏見に関しては「そういう風に育ったから」と言うしかないのではないかと。この時代においては。自分が人種差別はイカンと思うのも、そのように教えられたからですし。ましてバーナードは、子供の頃からずっと同じ家に住んでいて、恐らくあまり変らない面々に囲まれて育っているわけですし、当時はそういった差別意識を否定する声も殆どなかったのではと思います。差別感情以外では、バーナードはとてもいい人なのです。誠実だし。時々突飛な行動を起こしますがw


そんなバーナードにとって更にショックな事に、最愛のクイーニーが肌の色の黒い子どもを産むのです。
流石にこれにはバーナードも愛想を尽かすかと思いきや・・・「I'll never stop loving you」とか言って、クイーニーを責めず、更に子どもをクイーニーと育てる決意までしてしまうのです。なんだそれ!いい人通り越して恐い!(←)声はいいけど!
バーナードにとっては、クイーニーはそれだけ特別なのでしょう。いい人だけど面白みのないバーナードが、クイーニーに言われた事を気にして志願兵として戦地へ赴き(突飛な行動と思ったのはこれです)、生まれ育った環境から自然に持っていた差別意識や嫌悪感も、クイーニーのためなら脇に置いてしまえる。
私の印象としては、このドラマのバーナードの役割は、当時のイギリスの社会を象徴的に体現する人物ではないかと。決して悪人ではないけど、罪悪感もなく有色人種に対して偏見を持っている。「肌が白いだけで優れているのか?」とギルバートに問われるシーンがあるのですが、その瞬間まで、自分がそう思っていることに気付いてすらいなかったように見えました。
そして彼と同じように、その後のイギリスの社会も、自分達の価値観を問い直し、または何がしかの特別な出会いなども経て、少しずつ意識の変化が広がっていき、現代に至っているという、そんな事が示唆されているラストでした。
ベネディクトは、このドラマの中でのそうした役割を認識しながら演じていたと思います。そして、この人の役に対するアプローチの仕方が好きだなーと思ったのでしたwそうそう、バーナードが戦争が終わってもなかなか家に帰って来なかった理由というのが、深刻ではあるけれどうっかりするとちょっとギャグになってしまうような内容なのですが、それを告白するシーンでもあんな理由なんだけど心に染み入る演技でしたよ。ツッコミ入れたくなる理由なんだけど。


主演でないベネディクトの話で締めるのもなんですので、彼のシーン以外で好きなシーンでも。
生まれてすぐに養子に出されたホーテンスは、ドラマの序盤では自分の経歴を偽って人に語るのですが、ラスト近くに自分を手放した母の気持ちを理解してギルバートに語るシーンが好きですね。そのシーンがと言うか、ドラマの中で起こることに必然性を持たせる仕掛けと、キャラクターの成長を象徴的に見せる流れの作り方、両方の上手さに感心しました。
ベネディクト絡みでいくつか見た映画やドラマで、作品の主要なメッセージ以外の部分でも、脚本などでの見せ方に感心させられた事が何度もあり、そうした事を書き留めておきたくて、ブログで感想文を書くようになったのです。これもその内感想を書こうと思っていたのですが、今になったのは、まあ世間で色々あるのを見るうちに、このドラマの事を思い出したので。
差別はだめよ、という、割と私は子供の頃から当然の事として受け取っている感覚も、先人の努力によって獲得されたものなのだな、と。