誕生日なのでドラマの話でも。

今日が誕生日のえむぞうですよ。コンバンハ。


それはそうと、先日突然ベネディクト・カンバーバッチについて書いてみたりしたのはですね、彼の出演作品を見れる範囲であれこれ見た結果、結構感銘を受けるものにいくつか出会ったので、感想を書き留めておきたいなーと思ったからなのです。
しかしフィギュアスケートシーズン真っ只中の昨今。そうそうダイアリーを更新する余裕もないわけですよ。HDD整理しないとですしね。毎年こういうこと悩んでいる気がしますが。


しかし今日1月8日は、2004年にカンバーバッチがBBCドラマ『Hawking』で若き日を演じたスティーブン・ホーキング博士の71歳の誕生日ということなので、この機会に『Hawking』の感想でも書きとめておこうというわけです。


ドラマのスタートは、1963年の1月8日・・・とか書けたら美しいのですが(笑)最初のシーンは1978年のストックホルム。2人の男性が正装してインタビューを収録する場面からです。この2人は、ロバート・ウッドロウ・ウィルソンとアーノ・ペンジアス。ビッグバンの名残である宇宙マイクロ波背景放射の発見により、ノーベル賞を受賞。正装しているのは、これからノーベル賞の授賞式に行くから。そこからホーキングの話が出て、2人は彼には会ったかと聞かれ「ニュージャージーとイギリスだ、会ってないよ」と答え「もう15年前か、懐かしい」となって、場面は1963年のイギリス、セントオールバンズのスティーブン・ホーキングの自宅、彼の21歳のバースデーパーティーの場面に飛ぶわけです。
そこから、恋人であり後に妻となるジェーンの登場、病気の発症、闘病しながらの研究活動といったシーンの描写の合間に、1978年のストックホルムの場面が挿入されます。インタビューの場面は、研究の経過や(主にペンジアスの)来歴を語っているのですが、このやりとりもなかなか味わい深いです。『Hawking』というタイトルながら、ユダヤ人で戦時中にドイツより逃れてきたペンジアスの物語も強い印象を残します。


このドラマの感想を一言で言うなら「美しい」でしょうか。
別に、際立った美形俳優が出ているとか、映像が凝っているとかそういうわけではないのですが。ドラマの通奏低音と言えば、ウィルソンとペンジアスが発見したノイズですし。笑。
そういう類のものではなく、科学者達の純粋さが美しいといいますか。


あと脚本も美しいですねー。というか、イギリスのドラマをあれこれ見るにあたってひたすら感心したのは脚本のクオリティです。クオリティというか、仕掛けですか。まあ最近日本のドラマをあまり見ていないので、あまりいいものを知らないだけという可能性はありますが。あ、『相棒』の傑作回をいくつも書いている古沢良太さんや太田愛さんは上手いとおもいますよ。余談ですが。
この話のキーワードとして「聞こえる?(Can you hear me?)」という言葉があると思うのですよ。大事な場面でこの言葉が出てきます。
まずはホーキングが病気を発症した場面。人を呼ぼうとその場を離れるジェーンに「Don't leave me!Can you hear me!?」と叫びます。
そしてそれと対比させるように、ラストシーンで周囲を見渡しながら、満たされたような表情で「Can you hear me?」と呟くのです。このときもジェーンが彼を置いてその場を立ち去るのですが、最初の「Can you hear me!?」と叫んだ場面と違って、もう不安はないわけです。
そしてもうひとつ「聞こえる?(Can you hear?)」という問いかけが出てくるのは、医師にもう治療のしようがないと宣告されて失意の中にあるホーキングを、研究者仲間で、後に共にブラックホール特異点定理を証明するロジャー・ペンローズが救うときの言葉が「Can you hear?」なのです。個人的に、一番胸が熱くなった場面でした。
この場面では、ペンローズはいわゆる「聞こえない音」をホーキングに「聞かせる」のですが、このドラマのもうひとつの主軸であるウィルソンとペンジアスのエピソードは、通常では聞こえないノイズの発見なわけです。そして、ドラマの最初の場面、ホーキングのストーリーが動き出す前に、ペンジアスの台詞で「the sound or story?what's the different?」というのがありまして、こちらのストーリーのキーワードである「the sound」と、ホーキングのストーリーで大事なところで出てくる「Can you hear?」と対応しているように思うのですよ。
あと、このドラマは若き日のホーキングがペンローズと共にブラックホール特異点定理を証明するまでを描いている、つまり「宇宙のはじまり(the beginning of time)」を探す物語なわけですが、そのドラマの一番最初の台詞がペンジアスの「He has to be back to the beginning」といのもうまいなと。場面の意味的には「テープを最初まで巻き戻せ」なのですが、ストーリーのクライマックス、ホーキングが特異点についてひらめきを得るのが「時間をバックさせて考える」だったあたり、象徴的な言葉なわけですよ。
そして、別々に進む物語は最後に繋がる(といっても別の時間のままなのですが)わけですが、ペンジアスが「すべて繋がっているんだよ」と語り、ビッグバンの名残であるノイズ(the sound)がドイツを通り、スーツケースを通ってゴ○ブリを通ってアメリカ、そしてアメリカンドリームを通ってここにある的な事を言うのです。ここに出てくるスーツケースとかゴ○ブリとかは、ドラマの中で語られたペンジアスの来歴のキーワードなのですが、画面のこちら側にいる人間にとっては、そこにホーキングやペンローズの物語も連なっていくわけです。ドラマの中の登場人物と場面は物理的には繋がらないけれど、見ている人の中では2つのストーリーが繋がるという脚本の仕掛け、それ自体もまた私にとっては「美しい」ものでした。


とまあ、脚本に感銘を受けた話ばかりで、ベネディクト坊ちゃんの演技についてはあまり語ってませんね(笑)
ふつーにすごかったですよ。何しろホーキングですから。筋萎縮性側索硬化症が進行していく様子を演技で表現しているわけですから。このドラマで彼が高く評価されたというのもまあ当然というものです。
そして、その熱演に相応しい脚本に共演者であったというわけです。喜ばしいですね。